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データ
名称:ゴキブリ,蜚蠊(ひれん),御器噛(ごきかぶり),油虫
英語名:cockroachまたはblack beetleとも呼ばれる。
種数:4,000種以上 行性:夜行性 食性:雑食

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概要
・ゴキブリ目ゴキブリ科の総称。 現在ゴキブリとして知られているが,本来はゴキカブリ(御器噛)である。 これは昆虫学者である松村松年が1898年刊行の日本昆虫学で誤ってゴキブリと表記したことに由来している。また,ゴキカブリ(御器噛)は茶碗などの御器をかぶる(かじる)ことに由来している。
英語での名称であるcockroachはスペイン語のcucarachaが英語化したもの。
別称であるcroton bugは主にチャバネゴキブリに用いられ,1842年7月4日に上水としてニューヨーク市の水源に利用された川名で,通水後にゴキブリが増え出したことによる。
・2億年前の石炭紀には既に存在していたと考えられている。
・ゴキブリの99%は野外性である。

構造
・一般には扁平で光沢がある。
・目は数千からなる複眼で,複眼と顎の間からは細く長い触覚が生えている。
・触角の中で最も長い,触覚の根元にある柄節はゴキブリの体長が大きい種ほど長く,また同種でもメスよりオスの方がやや長い。
・触覚は50~60の鞭節で構成され,これを振り回して周囲の物体を探知する。
・触覚先端は電子顕微鏡で拡大すると発育が不完全となっており表面がでこぼこしていて感覚器は少ない。
・口器はいわゆる咀嚼式で,食物を顎で噛む構造となっている。
・口器周辺には小顎肢や下唇肢などの付属肢があり,小顎肢は5節,下唇肢は3節で構成され,それぞれの先端の節には嗅覚と味覚を司る短毛感覚子が密集している。摂食の際にはこの小顎肢や下唇肢を使って食物を撫でる様に動かし形状や固さ,味や臭いを感知し,食物を持ち上げて大顎へと送り込む働きがある。
・口器には側舌と中舌という構造があるが味を感じるためのものではなく,舌表面にある表皮の一部が変化してできた帯状毛で大顎が噛んで細かくした食物を口内に掃き入れる役割を持つ。
・大顎は食物を咀嚼し噛み砕く役割があり,内側はのこぎり形の歯が左右対称に噛み合う構造となっている。噛む力はプラスチックに噛み痕を残すほどで,通常はヒトを噛まないが自衛の為に噛む事があるという。
・表皮は強固なクチクラで覆われており,これは3層からなる。
・最も外側の外表皮は蝋質を含み水をよく弾く。
・中間の外原表皮は薄い膜が層を成しており色素を含んでいる。ゴキブリの色はこの外原表皮の色素によって決定する。
・最も内側の内原表皮は厚くて柔軟性に富んでいる。
・表皮の下には1層の真皮細胞があり,表皮や毛などの形成に関わっているほか,真皮細胞層には腺細胞で構成された皮膚腺があり,皮膚腺孔を通して外表皮に皮脂を分泌する働きがある。皮脂腺は数が多く,皮脂の分泌は盛んなため体表は光沢を帯びる。
・胸部は前胸,中胸,後胸からなり,それぞれ前脚,中脚,後脚が生えている。
・脚はいずれも同じような構造で,2節目と3節目には距刺と呼ばれる特徴的な刺状の構造がある。
距刺は完全に角質化された硬い刺で防衛や攻撃に有効である。
・脚の先端にほど近い付節と呼ばれる節には皮脂腺孔が分布しており,特殊な皮脂の働きにより歩行時の摩擦力を増大させる。また,鐘状感覚子も多く存在しており,地面や物体表面の状態を感知する。
・脚の先端にある爪は2本の角質化した爪があり,壁面の歩行等に役立つ。
・翅は2対あり,中胸からは前翅,後胸からは後翅が生えている。
・翅には翅脈が観察され,内部は中空の管状構造となっており,中には細い気管が入っている。
翅脈に沿って剛毛感覚子があるが,他の部位と比較して細くて短い。
・住家性のゴキブリは翅を動かすための飛翔筋が発達しておらず飛翔能力は失われているが,クロゴキブリやワモンゴキブリは翅を展開して滑空することができる。また,野外性のゴキブリには飛翔可能な種も存在する。
・腹部の末端には尾葉(尾角)が1対あり,十数節から成る。背側の表面には剛毛感覚子が密集しており,気流や振動などを感知する触角に次ぐセンサーのような役割を果たす。 短毛感覚子は数が少なく,鐘状感覚子は見当たらない。
・腹部の最端に尾刺突起があり,幼虫では雌雄共に尾刺突起があるが,成長に伴い雌の尾刺突起は消失して雄だけに残る。しかし全ての雄の成虫に見られる構造ではなく,チャバネゴキブリには尾刺突起が存在しない。
・尾刺突起は円柱状で感覚器は数十本の剛毛感覚子のみがあり,表面には皮脂腺孔が多数分布している。
・生殖器は普段,第9節の腹板に覆われており通常は目視することはできない。
腹板を開くと交尾鈎と把握器,陰茎がある。
・交尾鈎は角質化しており,その名の示す通り鈎状で、交尾の際に雌の生殖器を覆い隠す生殖弁を掻き開いて交尾位置を固定するのに役立つ。
・把握器は交尾鈎と同様に角質化しており,陰茎の位置を産卵管の開口部に安定させる役割がある。
・陰茎も角質化しており,表面にはクチクラ質の短い毛の突起が多く存在し,電子顕微鏡で拡大すると毛の先端は皿状になっている。交尾の際は陰茎を雌の産卵管の開口部に挿入させ,精子が詰まった精包を産卵管内に放出する。雌はこの精包を受精嚢に貯えることで1回の交尾で数回の受精卵を産むことができる。
・雌の生殖器は第7節の下にあり,通常は2枚の生殖弁しか見ることはできない。 生殖弁を開くと産卵弁片という受精卵を停留させ,付属腺という部分から分泌される粘液で卵を包み込む卵鞘を形成させる場所が確認できる。 産卵弁片には各所に剛毛感覚子や鐘状感覚子が存在し,卵鞘を保持するためのものと推測されている。

気管
・ゴキブリを含めた多くの昆虫には肺は無く,呼吸は気管系によって行われる。
・ゴキブリの気管系は気門,気管,毛細気管からなる。
・気門とは節足動物に見られる体表に見られる呼吸をする為の出入り口で,ゴキブリは胸部に主として吸気を行う気門が3対,腹部に主として排気を行う気門が7対ある。気門の内部には多数の繊毛があり,呼吸時に異物を濾過する働きがある。 また,ゴキブリの気門は周辺の筋肉運動によって開閉が可能であり,エーテルや二酸化炭素などで麻酔をかけると気門は最大限に開くように頻繁に開閉動作を行う様子が観察される。 気門から入った空気は気管へと流れ,さらに多数の毛細気管に枝分かれして体内の組織へ拡散現象により酸素が供給される。二酸化炭素の排出は逆の順序が行われる。また,酸素消費量の激しい脚の筋肉や消化道,卵巣などでは毛細気管が発達している。

循環系
・ゴキブリの体液(血液)は液体成分である血漿と固体成分である血球からなる。
・通常,脊椎動物などの血液の色は酸素を運搬するためのヘモグロビンを含んでいるため赤いが,昆虫は気管という独立した呼吸系が存在するため食べた物の色素に応じて淡黄色,淡緑色を呈するが基本的には無色透明である。 ・血球には多くの血球細胞が存在するが,最も多いのは球状の原血球である。
・体液は基本的には体腔内に充満しており,体内のあらゆる器官が全て体液の中に浸されている。また,周囲の組織から体液を取り込んで体腔内を循環させるための背脈管と呼ばれる収縮性の血管のような器官が存在しており,ゴキブリの場合は腹部後端から始り脳の近くまで伸びている。背脈管には体液の逆流を防ぐために数か所に動脈弁がある。

神経系

・ゴキブリの中枢神経系は脳と食道下神経球,腹走神経索からなる。
・脳は後頭部の大部分を占めており,触角や複眼,口器などに感覚器官に神経束が伸びている。
・食道下神経球は脳とほぼ融合している。
・神経はいわゆるはしご系神経系と呼ばれるもので,体表各所の感覚子で得た刺激は末梢神経を通して中枢神経系に伝達され,処理された情報は末梢神経を通して筋肉などに送られ,得られた外部刺激に対応する行動を引き起こす。
・はしご系神経系では,各々が支配する体節に対応する神経球が存在するため,脳を切断してもそれぞれの神経球だけでしばらく動くことができる。 ・脳は神経器官であるだけでなく内分泌系も有し,脳にある大型神経分泌細胞から脳ホルモンを分泌し,脱皮ホルモンや幼若ホルモンの分泌量を調節して脱皮や羽化を制御する。

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消化系
・消化管は前腸,中腸,後腸に大別される。
・前腸は咽頭と食道,素嚢,前胃に分かれる。素嚢は食物を一時貯蔵する半透明の膜状の袋で,前胃は内壁に前胃歯と呼ばれる硬質化した6列の歯状突起が配列し,再咀嚼しながら数本の盲腸状の胃盲管から酵素を分泌して消化を補助する。 また,素嚢と前胃の内壁はクチクラで構成され,硬い食物に対する保護作用がある。 特に素嚢はクチクラが鱗片状の構造となっている。
・中腸は胃の役割があり,消化と吸収が行われる。中腸内側には囲食膜と呼ばれる網状膜があり,微細な網孔が多数分布している。この囲食膜は消化液と栄養分は通過できるので,中腸細胞から分泌される消化液の放出と栄養分の吸収ができる一方で,未消化の食物は通過することができない。
・中腸細胞の表面は繊毛状で,表面積は何万倍にも拡大されている。消化液の分泌や栄養分の吸収はこの繊毛を通して行う。
・後腸は幽門から始まり淡黄色のマルピーギ管が開口している。マルピーギ管の後部は腹部に数十本の盲状の細管が伸びており,血液中の代謝老廃物が吸収され,老廃物中の水分や塩分など再利用可能なものは後腸細胞で吸収し血液へと戻されるが,残りは消化物と共に体外へと排出される。
・後腸表面は繊毛上で,水分や塩分を効率よく吸収することができる。
・後腸後端の膨らんだ部分は直腸と呼ばれ,幼虫はここで集合フェロモンを分泌させ糞に混ぜて体外へと排出し,同種を互いに呼び寄せて群居生活を行う。

感覚器
・視覚は数千個の個眼によって光刺激を感受し視神経へと伝えられる。また,野外性と比較して住家性のゴキブリの個眼は発達が低い。電子顕微鏡での観察では個眼と個眼の間に微小な毛が生えており,形態的特徴は後述の短毛状感覚子と似ているがその役割はまだ解明されていない。
・複眼付近には単眼斑があり,機能的役目は無いようで痕として残されている。
・触覚の感覚器は体表にある50~200μmの剛毛感覚子で感知し,基部にある神経細胞の樹状突起が毛の動きを刺激信号に変える。
・嗅覚と味覚を感知する短毛状感覚子は長さ3~20μmで,先端は開口しており,内部は数個の神経細胞の樹状突起が先端まで伸びている。
・圧力変動は鐘状感覚子によって感知する。鐘状感覚子はクチクラによって薄く覆われており,内部で神経樹状突起の先端が付着して圧力の変化を感知する構造となっている。
・これら剛毛感覚子や短毛状感覚子,鐘状感覚子は全身にあるが,脚には短毛状感覚子が無い。 また,これらの感覚器は触角に最も密集している。触覚に最も多い感覚器は短毛状感覚子で,次いで剛毛感覚子,鐘状感覚子が存在する。毛の着生は規則的なものや不規則なもの,密集しているものと疎らなものなど種によって異なる。

種類
クロゴキブリ
・学名:Periplaneta fuliginasa
・体長23~30cm(メスは25cm程度) ・7~8回の脱皮を経て成虫になる。
チャバネゴキブリ
・学名:Blattella germanica
・体長:1~1.5cm ・6~7回の脱皮を経て成虫になる。

補足情報
・夏の季語として知られている。
・陸上の全ての生物の体を同じ大きさにしたとき,最も速いのはゴキブリである。
 秒速は1.5mほどだが体長は3cmほどなので,1秒間に体長の約50倍の距離で移動することができる。