基礎知識データベース

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データ
分類:緩歩動物門
体長:0.1~2mm程度
種数:1,000種以上

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概要
・1773年にドイツのゲーツェによって初めて報告された。
・体形や歩く様子から熊を思わせるので発表された文献ではKleiner Wasserbärと呼ばれた。Kleiner Wasserbärは"小さな水熊"の意味で英語のwater bearはそれを訳したものである。
・クマムシの起源は海であるとされ,一部の乾燥耐性を獲得したものが陸上進出し,さらに一部が淡水に適応して再び乾燥耐性を失ったと考えられている。
・異クマムシ綱と真クマムシ綱,その中間である中クマムシ綱の3綱が知られている。
・クマムシの乾眠状態はあらゆる環境への耐久性を示し"最強の生物"と呼ばれている。
・クマムシが乾燥に適応する動物である事が初めて発表されたのは1776年にスパランツァーニ(Spallanzani)によって報告されており,クマムシを"のろま"と呼んだ。
これは現在の緩歩動物門の名称であるTardigradaの由来にもなっている。

生態
・基本的には水生動物であり,周囲に水が無い状態では活動できないどころか呼吸もできない。
・生息地は海や土壌から極地,深海まで幅広く,身近には苔や地衣類で見られる。
・深海や南極からも発見されている。
・一般的なクマムシは孵化してから4,5日おきに脱皮して成長する。

構造
・体表はクチクラで構成されており半透明である。
・5つの体節からなり,4対8本の肢と爪または吸盤が観察される。
・肢は伸縮が可能だが関節は無い。
・口は出し入れ可能な2本の口針があり,この針で植物の細胞に穴をあけて細胞易を吸い出したり獲物に突き刺して体液を吸う。
・呼吸器官は存在せず,呼吸は水に溶けた酸素が単純な拡散によって直接取り込まれる。
陸上のクマムシは水をまとって呼吸し活動を行う。

生殖

・雌雄が存在する種,雌のみが単為生殖を行う種,雌雄同体の種が混在しており多様な生殖様式を持つ。
・雌のみが単為生殖を行う種(オニクマムシ等)にも稀に雄が生まれる事があるという。仮に雄が生まれたとしても単為生殖で増えた雌の個体と交尾した場合は有性生殖としての意味はなく別の遺伝子群の雌と交尾をする必要があり,クマムシの生殖には未解明な部分が多い。
・単為生殖を行う種では,体内で卵が発達しそのまま産卵する種や体表を覆う脱皮殻の中に産卵しながら同時に脱皮する種も存在する。
・産卵数は個体の栄養状態に比例するという。

環境耐性
クマムシはクリプトビオシスとシスト形成によって厳しい環境下においても生存することができる。
クリプトビオシス(cryptobiosis)
・クマムシ類はある特定の環境下ではクリプトビオシス(cryptobiosis)と呼ばれる特殊な仮死状態となることで知られ,クマムシが「最強の生物」としてメディアに紹介されるのは主に乾眠状態のクマムシである。
・クリプトビオシスは1957年にケイリンによって提唱された概念で"隠された生命活動"の意味がある。
・クマムシのクリプトビオシスは乾眠,凍眠,塩眠,窒息仮死の4つが知られている。また,クリプトビオシスとは別にシスト形成と呼ばれる現象が起きる事も知られている。
乾眠
・anhydrobiosis(アンハイドロビオシス)とも呼ばれる。
・クマムシの周囲の水がゆっくり蒸発すると樽状の構造となり乾燥に耐える事ができる。
・人工的にクマムシを乾眠状態にさせる為にはクマムシを含む水滴を寒天または濾紙に滴下させて半日ほど自然乾燥させる必要がある。
このようにゆっくり乾燥させなければ乾眠状態に移行させることはできず死んでしまう。
・卵も乾眠状態になることが知られており,中央部が凹み赤血球様の形状となる。
・乾眠状態のクマムシは水分を与えることで十数分後に再び動き始める。
・乾眠を行う生物は他にアルテミアやネムリユスリカにも見られる。
・温度は151℃の高温から-151℃の低温まで耐える事ができる。
・低温は液体水素内でも26時間生存できたという報告があり,通常状態でも-253℃の低温に耐えられることが1920年代に報告されている。
・圧力は真空から7.5GPa(6時間)の高温にも耐える事ができる。(最も深いマリアナ海溝の海底でも水圧は100MPa程度)
・放射線は1964年に約5,000Gyという強力な放射線照射にも耐久した。
しかし,クマムシは乾眠状態よりも通常状態の方がむしろ耐性が高い傾向にあり,通常状態のオニクマムシでは1964年に6,200Gyのガンマ線照射に耐えたことが報告されている。
・欧州宇宙機関(ESA)が2007年9月に打ち上げた宇宙実験衛星「Foton-M3」にはクマムシを格納した容器が設置され軌道突入後に格納容器が開けられ宇宙空間に10日間もの間さらされたが地球帰還後に繁殖活動が確認された。
凍眠
・クリオビオシス(cryobiosis)とも呼ばれる。
・低温によって引き起こされる。
・乾燥耐性を手に入れた副次的な耐性であると推測されている。
・グリーンランドで8年以上も凍った状態で保存されたクマムシが活動した報告や,南極で採取され
30年間保存されていた苔の中にいたクマムシの活動が確認されている。
塩眠
・オスモビオシス(osmobiosis)とも呼ばれる。
・高浸透圧の外液によって水分が奪われて引き起こされる。
窒息仮死
・アノキシビオシス(anoxybiosis)とも呼ばれる。
・酸素不足によって引き起こされる。

シスト形成
・クマムシはクリプトビオシスとは独立して,シスト形成を行う事が知られている。
・水質が悪化した際に脱皮機構を利用して何層もの新しいクチクラにより被嚢を形成してその中に閉じこもる。


乾眠状態について
・乾眠状態が初めて報告されたのは1922年,ドイツのバウマンの論文によるものである。
・バウマンは論文で乾眠状態のクマムシを"小さな樽型"と表現したため,現在では乾眠状態のクマムシは樽(tun)と呼ばれる。
・乾眠するとクマムシは代謝速度が1万分の1になり,水分消費量を通常の1%にまで抑える事ができる。
・通常は水分が体の85%を占めるが乾眠状態では0.05%まで減少する。
・乾眠状態における酸素消費が報告されているが,これは呼吸ではなく体の酸化である。
クマムシの乾眠状態の持続は酸化による損傷を抑えるために酸素を抜きできるだけ低温にするのが望ましい。
・乾眠状態では様々な環境に対しての報告がいくつもなされており,メディアによって誇大的に扱われる事が多いクマムシであるが,実際には圧死や餓死などで簡単に死んでしまう。
・また,上記の耐久実験においても何割かは乾眠状態から戻ることなく死んでおり,例えばクマムシの放射線に対する耐久性を示した有名なメイらによる5,000Gy(57万レントゲン)をクマムシに照射する実験では700匹が使われたにも関わらず,強力な放射線といえど生存できたのはたったの3匹で実に99.5%が死滅している。また,生存したクマムシが何の障害もなく健康であったかどうかは定かでない。放射線照射された個体の卵は孵化しない事が確認されている。
・120年前のクマムシに水を与えると蘇生したという逸話が流布されているが,この詳細は1948年のイタリアの論文にその記述が見られ,120年前の苔の標本からクマムシを取り出し,水に浸して12日目に一匹のクマムシの肢が震えるように伸び縮みした、とだけ記載されており蘇生したという訳ではない。

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オンセンクマムシ
・中クマムシ綱に唯一属されるクマムシ。
・1937年にスイス人の線虫学者であるラーム(Rahm)が日本の長崎県にある雲仙の温泉の古湯の流れ出しの湯垢から発見され記載された。
・オンセンクマムシは以降,発見されておらず、現在生息していたという温泉は涸れている。
・頭部には感覚毛があり異クマムシと共通であるが一方で咽頭は真クマムシに類似しているなどの
特徴から新たに中クマムシ目を作り,現在では綱に格上げされている。
・オンセンクマムシの肢には通常見られない肢の関節がある。
・オンセンクマムシの標本は保存されていない。
・イタリアの小川から発見されたCarphania fiuviatilisがオンセンクマムシに類似した形質をいくつか有している事が指摘されている。

補足情報
・異クマムシ綱の継代飼育は現在成功されていない。
・中国ではクマムシは熊蟲(ションチョン)と呼ばれている。
・脱皮前のクマムシは口の部分が通常とは異なるため新種であると間違われる事があり,1889年にはDoyeria simplexという学名まで与えられた。脱皮前のこの時期をその学名にちなんでsimplexと呼ばれているという。
・化石には琥珀に閉じ込められたものが発見されている。
・皇居での生物層調査で新たに新種のクマムシが発見され「ミカドチョウメイムシ」と名付けられた。